金子智太郎・畠中実主催の日本美術サウンドアーカイヴ開催に合わせて制作された限定エディション。
Editions for Japanese Art Sound Archive Exhibition.
Design by Akira Matsuoka
Curated by Tomotaro Kaneko, Minoru Hatanaka
日本美術サウンドアーカイヴ Japanese Art Sound Archive
EcS-005
Yoichi Niisato
THE CAESAREAN OPERATION [excerpt] (1973)
帝王切開 1973年
Side A : THE CAESAREAN OPERATION - RESEARCH 15 [excerpt] (1973)
Side B : Event: Fujisawa Airport [excerpt] (1973)
Limited 80copies
Sign & Numberd
Release : 2019
日常や記憶にまつわるごくありふれた物品をレディメイドとして陳列/展示し、その会場や街で実験とも日常の行為ともつかないミニマルな行為を行い、克明に記録していく"Reserch"を行なっていた時期の、「帝王切開」と銘打たれた展示会場でのパフォーマンス録音。
Side Aは、会場内に延々と流されるエルビスプレスリーの音楽と、鉄製のアーチにドリルで穴を開け、アングルを取り付ける際の実況録音。このプレスリーの音楽もアメリカ批判などの意図はなく、以前聴いていたという記憶からのものに過ぎない。ドリルで穴を開けるという行為にはセクシャルな意味を含むようだが、プレスリーとの関係性は不明である。
(収録時間30分)
Side Bは藤沢飛行場でのイヴェントの実況録音からの抜粋。空港の敷地内で目にしたものを言葉にし、そこから連想される言葉の連なり。やはりこれも新里の記憶に因るものが多い。
(収録時間30分)
彼の表現は全てにおいて何気ない日常や過去の記憶との境目がなく、完結した「作品」としての様相を一切排除している。
それは、淡々と克明に記録された「行為」全てが単に新里本人の日常を表し、そして、新里そのものが作品たりえるということなのかもしれない。
EcS-004
Norio Imai, Toru Kuranuki, Saburo Muraoka
この偶然の共同行為を一つの事件として
1972年
"This Accidental Co-action as an Incident" (1972)
Side A : This Accidental Co-action as an Incident
Side B : The Heartbeat of Norio Imai
Limited 100copies
Sign & Numberd
Release : 2019
1972年夏の10日間、大阪にて今井祝雄、倉貫徹、村岡三郎が共同で行ったイヴェントの音の記録。
喫茶店内に設置されたレコーダーから三人の心臓音がエンドレステープで流され、それは歩道脇のショーウィンドウ内のオシロスコープに波形として映し出される。
またそのサウンドは建物屋上の使用されなくなっていた3台のスピーカーから街へ向けて流された。
Side Aは街頭に心臓音が流されていた様を残した貴重なサウンドドキュメント(収録時間5分)。
Side Bは実際に流されていた今井祝雄の心臓音を、当時のエンドレステープ仕様に沿ってループしたもの(30分)。
美術家の行為であることが伏せられ、視覚化、聴覚化されたそのサウンドは街行く人々にどのように伝播したのだろうか。
純然たる「もの」として街へ投げかけられた匿名の心臓音。人間の営みの根本としてのリズムである心臓音が絡み合い、より大多数の人間が行き交う街頭に浸透する。
日常の街頭で耳に届いたそのサウンドが心臓音であることに気づいたとき、その人間はおそらく自分自身の心臓音を意識したに違いない。そしてそれは自身を取り囲む集団を意識することであり、個と社会の切り離すことの出来ない関係性を無意識の領域で体感したのかもしれない。
美術家の作品として世に問うことを避けた匿名性の高いこのイヴェントは、体感することによって各々の無意識レベルでの気づきを誘発するという純然たる美術作品であったに違いない。
EcS-003
和田守弘 Morihiro Wada
認識からの方法序説No.Ⅲ MR. NOBODY 言葉の中のモニュメント 1973年
"An Introduction to Methods from Cognition No.III
Mr. Nobody, Monument in Words [excerpt] (1973)"
Side A : From Morihiro Wada to Hideo Yamamoto
Side B :From Shigeki Fukumoto to Morihiro Wada
Limited 80 copies
Numberd
Release : 2018
ポラロイドカメラのファインダー越しに覗く風景を公衆電話で伝え、それを描いていく一連のやり取りを収録した作品。
会期中繰り返されたそのやり取りを録音したテープを同時再生、また伝達者と受信者の行為を撮影したビデオテープを同時に再生するといった当時の展示作品の為のテープ素材をA面、B面にそれぞれ収録した。
上手く伝わらないもどかしさ、説明を消化出来ない歯がゆさががユーモアを帯びて響く。
また、作家自身のバリトーンボイスも非常に魅力的で、人柄が垣間見える録音になっている。
電話からの音声、受け手側の状況が音響的にも異なる響きの上、電話越しにかすかに聞こえてくる向こう側のざわめきなど、当時の臨場感が伝わる音源。
EcS-002
高見澤文雄 Fumio Takamizawa
「柵を越えた羊の数」
"Number of Sheep Who Jumped over the Fence" [excerpt]
(1974)
Side B : 1974. 4. 28
Limited 80 copies
Sign & Numberd
Release : 2018
1974年当時、作品に実際に使用されたカセットテープの音源から収録。
実際には25日分の録音された眠りに落ちるまでのカウントが一斉に再生されていた。
反復、重ねること、記憶が一貫したテーマにある高見澤にとって、カセットテープレコーダーいうメディアは表現の新たな可能性を秘めていたことであろう。
覚醒、睡眠を繰り返し行う人間の営み、人間が生きる間に繰り返す全ての行為は反復であり、記憶、忘却が絶え間なく行われ上書きされ、消滅していく。
高見澤のこの作品に触れると、その絶え間なく繰り返される記憶と忘却の彼岸に立ち覗いているような、浮遊する観測者のような感覚にとらわれていく。
今回制作されたエディションには、その作品を形作っていたマテリアルが収録されている。Roman Opalka、河原温などにも数字のカウント作品があるが、高見澤のマテリアルは、数字を間違えたり、途中で眠ってしまったり、しどろもどろになったりと、非常にユーモアのある録音物としても楽しめる内容になっている。
外を行く車の音などの環境音も含め、当時の空気感が閉じ込められた質感を持ったこのマテリアルは、作品の一つのパーツを持ち帰るものとして非常に貴重なアイテムとなっている。
日本美術サウンドアーカイブの再制作展示に合わせて制作された、1972年録音の未発表作品。
当時、カセットテープレコーダーがようやく普及し、「時間」そのものを記録可能になったことは、記録、記憶、自分、他者の視点の差異を常に意識していた作家にとって大きな変化であったと言う。
「記録」という行為を経由することにより、自分と他者の間に現れる認識の差異、ズレ、新しい視点を誘発する。それは作家自身の新たな認識へと繋がっていく。
定点録音されたstaying、ある地点からある地点まで歩きながら録音されたwalking 。
稲はこの時、何を見て、何を感じていたのだろうか。作家の主観を巡る音の旅に出ることにより、聴く者は聴く者自身と向き合うことになる。そこに生まれる新たな認識は、稲の視点を越えた新しい他者の認識の旅となるであろう。
フィールドレコーディングが当たり前のように行われる昨今、稲の強度なコンセプトによる
現地録音は新しい知覚の旅を誘発することになる。
また、72年当時の様々なサウンドそのものも非常に興味深く響く。
車のエンジン音、パトカーのサイレン、ちり紙交換車のアナウンス、会話、駅構内の音、通り行く子供たちの声。
フィールドレコーディング作品として、リスニング作品としても非常に聴き応えのある作品。